お袋デリバリー

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夕方に始まった同僚とのリモート飲みは中々に盛り上がり、そろそろお腹が空いてきた。
「なあ、これ頼んでみない?お袋の味が届くんだって」
先輩が画面いっぱいに広げたのは、お袋デリバリーと書かれたチラシ。
「え、母さんの料理が?」
「おかんの唐揚げ食いて〜」
目を輝かせる同僚達。
母のいない私にも届くのか不安だったが、流れに乗って注文した。

ピンポーン。早速先輩の家に届いたようだ。「マジで母ちゃんの卵焼きだ」
ピンポーン。「わ、おかんの唐揚げ!」
驚きの声が広がる中、うちのインターホンは一向に鳴らない。
やっぱり来ないか。
私は寂しさを堪え、同僚には「お腹が空いてなくて頼んでない」と嘘をつき、賑やかな空気を壊さぬよう努めた。

ピンポーン。
ところが翌朝デリバリーが来た。元気がない時、よく父が作ってくれた料理だった。
一晩煮込んだビーフシチュー。
それはどんな時でも笑顔をくれる、私のお袋の味。
その他
公開:20/12/31 22:03
更新:20/12/31 23:14

アキ

春生まれです

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