獄道の父

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親父の背中には、閻魔様が睨みを利かせていた。
地獄本庁のお墨付きだが、地蔵の方が面にも性にも似合いだろう。『表裏さね』と笑った親父も、内心思っていたかも知れない。

うちは代々の厄座(やくざ)だ。全国の神社仏閣を行脚し、他人様が落とした厄を拾って回る。関わると厄付けにされるぞ。街中こぞってうちを避けた。厄はお役目なんだがね。説明して解ってもらうのは難しい。わだかまりの塊みたいな黒い背負子を下ろし、親父の閻魔様に隠れて溜息をつく。よくよく因果な商売だ。

子供にだけは好かれた親父は、酔っぱらいの暴走車から子供を庇い、身代わりに撥ねられた。背中以外は最期まで地蔵な親父だった。
湯灌を終えた綺麗な背中に帷子を着せ、軽くなった肩を抱く。
生涯背負った厄を下ろし、今頃は本庁で一息ついた頃だろう。
次は俺の役回り。黒紋付に袖を通しながら、鏡を覗いて苦笑する。鬼瓦に地蔵菩薩、これまたさっぱり似合わない。
その他
公開:20/12/31 21:57
縁~ゆかり 閻魔大王と地蔵菩薩

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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