うしるこ

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むかしむかし、ある北の大地に牛たちの楽園がありました。
牛たちは、寒い冬になると「うしるこ」と呼ばれる乳牛山の麓にある秘湯に浸かって温まりました。
牛たちの間で秘湯は評判となり、夫婦、親子連れ、そして仲間とともに「うしるこ」の湯に浸かり癒されました。
その湯は乳白色に茶色く濁り、白に黒の斑があった牛たちは気持ち良さそうに背伸びしながら「モー」と鳴き、うっしっしと笑ったそうです。
のちに「うしるこ」が訛って関東で「おしるこ」となり、主に小豆を砂糖で甘く煮た粒餡の汁の中に、焼き餅や白玉団子などが入りました。
関西では「ぜんざい」と呼ばれ、明治時代、大阪ミナミの法善寺横丁にあった茶店で、ぜんざい一人前を二つの椀で出す『夫婦善哉』が誕生しました。大正から昭和にかけて活躍した作家、織田作之助の短編小説でも有名です。
今でも丑年の正月に、お雑煮の代わりに「うしるこ」を食べる地域があるということです。
その他
公開:21/01/01 00:00
楽園 秘湯 関東 おしるこ 関西 ぜんざい 『夫婦善哉』 丑年

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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