銀河列車

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「音が全くしないのですなあ」
男はそう言うと車窓を閉めて、向かいの青い天鵞絨の腰掛に座った。
「何でカメラ持たせてくれなかったかなあ」
男の膝の上には写真が一枚あった。
窓の外にいくつもの燐光がはねている。この幻想的な世界を写真に収めたかったに違いない。
小さい頃、星の降る音を聞いた。だけど実際の宇宙は音がしないらしい。
私は膝の上にあるクマのぬいぐるみを見つめた。その顔は死んだ主人にどことなく似ていた。死後の旅に縁の品は一つだけだと知ったのはこの列車に乗ってからだ。
ずっと一緒だね、そう呟いた時だった。離れた席の女の子が泣き始めた。他の乗客がなだめても泣き止む気配がない。側に行くと女の子の膝の上には赤ちゃんクマのぬいぐるみがあった。
「ほらパパクマだよ」
私がぬいぐるみを見せると女の子が笑った。
「おばあちゃんと一緒に行こうかねえ」
窓の外にまるで十字架のように南十字星の光が見えた。
ファンタジー
公開:20/12/31 23:53

ジョーク松山( 瀬戸内の海のどこかの港町 )

ジョーク松山です。
ひねもすまったりまったりかなあ

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