大晦日の出来事

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 娘の里咲が死んでから二人で出かけるのは久しぶりだった。買い物のあと、屋上のイルミネーションの掲示を見かけ立ち止まった。
「行く?」
「うん」
 エレベーターを降りた先には海のように青く輝くツリーがあった。
 突然手を引かれ、見ると4、5才の女の子だった。
「どうしたの?」
「パパとママがけんかして、おもちゃ見てたらいなくなった」
 胸に痛みを感じた。里咲が事故にあう直前にも僕達はけんかしていた。
「けんかいけないね。きっとまたパパとママ仲良くなるよ」
 さなえが言う。
「ほんと?」
 笑ったときに八重歯が見えた。従業員を呼び止める。
「すみません、迷子です」
「どの子です?」
 辺りを探したがその女の子は見つからなかった。駅の中を歩きながらさなえが言った。
「あの子の笑い方」
「うん、里咲にそっくりだった」
 さなえがそっと身体を寄せてきた。僕は抱きしめるように、か細い身体を引き寄せた。
その他
公開:20/12/31 23:53

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