絵本の『王子様』に憧れていた。

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心をどこかにおいてきた気分だった。
絵本の中の世界は優しくて温かくて、現実離れしている。絵本をそっとなでると、王子様が私に囁きかける。

「やはり君が、世界で一番美しいね」
王子様の言葉が、たとえ自分に向けられていなくとも私は満たされていた。

けれど夢の中に現れる王子様は、絵本で見たような金髪でも美男子でもなくて、黒髪で黒目の背の高い男性だった。
「お兄ちゃん!」
なぜか遠い存在の王子様に向かって、いつも私は親しげに話しかけている。おぼろげな視界で、夢の中の『王子様』が、優しく微笑んだように見えた。

「……変なの」
「美しい」なんて、御伽噺ぐらいでしか聞かない言葉だ。生粋の日本人の顔をした男性がかける言葉ではない。

「ミクー。お隣さんに挨拶しなさい」
「はーい」

……嫌だなぁ。醜い顔を見られるのがたまらなく嫌だ。今日は空き家だった隣家に誰かが越してくる日だ。玄関から男性の声がした。
青春
公開:20/12/31 23:47

ソラリス

空想世界の住人です。noteで活動しています。
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