姥ぁイーツ

5
13

大晦日の夜。
「うばぁーいーつでも頼もうかねぇ」
と、今年六十になる母が言った。
真琴村にもそんなサービスができたのかとスマホを覗き込むと、母は姥ぁイーツというアプリで注文していた。
「あ、怪しい⋯⋯」

一時間が過ぎ、二時間が過ぎた頃、通りの向こうから一台の乳母車を押す老婆がやって来た。
「さ、どいたどいた」
「はぁ⋯⋯」
老婆は乳母車の天蓋を開けて食材を取り出すと、ずかずかと土間に上がり込み調理を始めた。
さらに待つこと一時間。
旨そうな匂いとともに晩御飯が完成した。
「美味しい!」
それは炊き立てのご飯に味噌汁、鯵の塩焼きといった質素なものだったが、どれも懐かしい味がした。

「また来年な」
老婆はゆっくりと乳母車を押し、闇の中へ去っていった。
「やっぱり、母ちゃんには敵わないねぇ」
と呟く母の言葉でやっと思い出した。
あの懐かしい味は、幼い頃に食べた祖母の料理に違いないのだ──。
ファンタジー
公開:20/12/31 12:31
更新:22/03/30 16:13
真琴(まごっと)村

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
https://twitter.com/ShaTapirus
https://www.instagram.com/tapirus_sha/
http://tapirus-sha.com/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容