会ったことのない子に

あの時、あの子を産まなかったことをずっと後悔している。ううん、違う。「後悔」というと、「産めばよかった」と思っているようだけど、やっぱり産んだら苦労をかけて不幸にしたかもとも思っている。
だから、もう少し自分の気持ちに近い言葉を探すと「悲しく思っている」という表現になる。
どんな顔だったのか、どんな手足になるはずだったのか、どんな声か、どんな風に世界を感じるのか、わたしはその子に会ったこともなくて、なにも知らない。

何も知らないのに、ずっと悲しい。ずっと忘れられない。
会ったこともないひとの代わりが見つからなくて。