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職を失いプラプラしていた俺は、母親に頼まれ病院へ婆さんの着替えを持っていく。
婆さんはベッドの上で指を揉んでいた。
「痛かとか?」
「いや指の緒ば外しとったい」
「指の緒?臍の緒みたいなもんか?」
「そうやなあ、臍の緒は産まれるまでの繋がり、指の緒は産まれてからの繋がり。お前んば整えてやるばい」
俺は婆さんの戯言に付き合う。
「小指の切れた指の緒は…前の奥さんのやね。自分で揉みくちゃにしちゃあ切れるさ。緒っていうのは縁なのさ、それを糧にするかは自分次第、この新しい緒はよかもんだ。大切にしんしゃい」
「ありがとう。なあ、婆さんの指の緒、まだ外さなくてもよかやなかか?」
婆さんは俺の言葉に一瞬驚き、そして深々と頭を下げた。
病室を出ると、俺の携帯が鳴る。昔の仕事仲間だ。
「ああ、明日は髭ば剃って親方に会いに行くばい」
新しい指の緒を揉んでくれた時、泥と汗の匂いと共に笑い声と酒の匂いがしたんだ…
その他
公開:20/12/31 19:41

さささ ゆゆ( 東京 )

最近生業が忙しく、庭の手入れが疎かな庭師の庭でございます。

「これはいかんっ!!」と突然来ては草刈りをガツガツとし、バンバン種を撒きます。

なので庭は、愉快も怖いも不思議もごちゃごちゃ。

でもね、よく読むと同じ花だってわかりますよ。


Twitter:さささ ゆゆ@sa3_yu2





 

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