影と過ごした、50年

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 影をみていると、また涙がとまらなくなった。
 私が上を見上げると私の影も上を見上げる。
「そんなに泣いてたらオレが影になった意味ねぇだろ」
と、夫の声が聞こえた。
そう、死んだ夫が生まれ変わったのは、私の影。葬儀の時、影でもいいからそばにいてと祈ったから。
「なぁ、一服してくれよ」
 夫は私の影のはずなのに、主である私よりわがままで、すぐにタバコを吸いたがる。
「お前が吸わないとオレも吸えない」
 こんな影っているかしら。でも、ある日、
「そのバス、乗るな!」
 夫が私を強く引っ張り、バスに乗れなかった。走り出したバスは、対向車と接触事故をおこした。
 夫のおかげで多くの難を逃れ、50年が経った。
「犬の散歩で会う、じいさんの事、好きなんだろ」
 ついに私は恋をしてしまった。50年ぶりに人間に。
「よかったな。この時が来て」
 80歳の私から、夫は離れ、夜空に舞い上がり、星になった。
ファンタジー
公開:20/12/31 18:33
更新:20/12/31 21:43

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