水の住人たち

0
3

蝉の声が降りしきる午後。
葉のしげる枝が交差して、並木道には緑の水たまりができていた。
石畳で光の網が揺らめく。深い水底を歩いているような感覚。足元を抜ける風も緑色に見えた。

水の音。
蝉の声が遠のいた。川の中の水音が、耳の奥で流れだす。小さな影の群れが石畳の上をすべった。顔を上げると銀色の魚が頭上を過ぎていった。

昔は川だったという並木道の記憶だろうか。

いつも水に縁のある場所にひきよせられた。仕事でいろんな所に身を置くが、水の匂いがしなかったり、コンクリートの下の地面が遠く、水の流れを足で感じられないと長くは居られない。
自分が落ち着ける土地。水とつながる所に移ると、新しい人達の中へ入ってもよそ者という感じがせず、むしろ懐かしい気持ちがした。

そういえば友人は、昔沢蟹だったという。夢をよく見るらしい。
これも並木道の記憶ではなく、水に住んでいた頃の自分の記憶なのかもしれない。
ファンタジー
公開:20/12/31 17:59
並木 縁(ゆかり)

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容