時間を淹れる珈琲屋

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いつもの近道を抜けると、通りの角に店はあった。
厚い壁の入口をくぐり扉を開けると、
なだめるような顔をして静かにそれは閉じた。
長いカウンターに、月の影ほどの明かりが灯る。
「今日は水無月の06を」そう伝えると、店主は湯の音を響かせながら時間を注ぐように珈琲を淹れ、金色のトレーにチョコレートをのせ、静かに差し出した。
口の中でそれらが溶け出すまで、奥の棚に目を移す。
月日が刻印されたコーヒーとチョコレートが並ぶ。
口の中で溶け始めると、瞼のフィルターにぼんやりその日が浮かび始めた。

ここは気付かず通り過ぎた縁を、もう一度映し出す不思議な珈琲屋。

瞼に映った人は大切なことを語っていた。
目を開けると、店主が静かに湯を沸かしている。
「ごちそうさま」会話を交わし外に出ると
遠くからさっき瞼の中にいた彼が現れた。
「やあ、元気だった?」
「うん」
「いつ以来だろう」
「うん、いつだったかな」
ファンタジー
公開:20/12/31 17:09
更新:20/12/31 22:10

esimo( TOKYO )

designer | creator

昨年、田丸雅智さんの小説を知り、
頭の中の言葉を文字にして物語にする楽しさを知りました。
普段ものを作ることをライフワークにしていますが
気になった出来事や、言葉をつなぎ、
また新しい世界を楽しみたいと思います。


https://www.instagram.com/simoe__jewelry


 

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