庭師の世界

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庭師見習いの募集を見つけたのは夏の中盤。ちょうど次の仕事を見つけている時だった。何か新しいことを始めるのも良いかも。僕はこの仕事に応募し、無事就職することができた。

大学では建築を勉強しており、空間デザインについては活かせるところがあった。しかし肝心の樹や花については致命的。とにかく公園や他人の庭まで観察し、親方に聞いたり調べたりする日が続いた。

1年経つ頃には見える世界がガラリと変わり、まるで自分が新しい世界の住人になったように感じた。知らない花や樹は、友達のような親しみを持った存在になった。特に僕の仕事が認められた時に花を咲かせたソメイヨシノは、大事な花の1つになった。

さらに勉強を続け、年月はかかったが僕は樹木医になった。

お前を診る時が来るとはね。僕はあの桜の前で語りかけた。この子らにたくさんの世界を教わった僕は、次は何を返せるだろう? そう思いながら、僕は治療を始めた。
公開:20/12/31 16:58
更新:20/12/31 23:10

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

104.がおー

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