ゆかれ!

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三万人が見守る中、空砲が空に鳴り響き、選手は一斉にスタートした。

ゆかりもの競争はコースの途中に置かれた品物に縁のある人間を連れてゴールする競技だ。

俺は周りより少し早いタイミングで縁箱を開けた。中から出てきたのはドーナッツのような小さな輪っかだった。見た事も触った事も無く、これの縁が一体何なのか、皆目見当がつかなかった。

他の選手は次々と縁箱を開け、思い思いの場所へ足を運んでいる。

俺は輪っかを手に取り、まじまじと見つめた。大きさはバスケットボール程で、所々にヒビがあり、感触は固かった。全くわからない。一人競技場から動かない俺に沢山の声援と野次が聞こえた。

観客席に似た形をした輪っかを掲げる初老の女性がスクリーンに映し出された。顔を見て記憶が一瞬で戻った。あれは二十年前に家から居なくなった母だ。

まさかこれが親子の円と言う奴か。俺は輪っかを持って客席へ走り出した。
ファンタジー
公開:20/12/31 16:31

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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