袖すり合うも多少の縁

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「216円です。袋はどうなさいますか」
「だいじょう、あっ、いや」
 男は後ろを振り返る。まだ誰もいない。
「袋、袋、ううん」
 男は言い淀む。女はじっと男を見つめる。
「やっぱり、ください」
「小さいほうでよろしいですか」
「あっ、ええと、はい、小さいほうで」
「それでは、合計219円になります」
 男は財布から100円玉を3つ取り出し、トレイに載せる。
「あの」
「はい」
「えっ、いや、その」
「なんでしょうか」
 怪訝そうな表情で女が尋ねる。
「前から、その、あなたのことが、いや、ほんと、とても、気になってて。一度、その、お話しを、いや、別に、なんか、でも。お、お願いします、ないとう、みどりさん」
 男が勢いよく頭を下げる。
「私の名前、ゆかりなんですけど」
「ゆかり」
 顔を上げた男が訊き返す。
「ええ、ないとうゆかり」
 男は絶句したまま、今度はゆっくりと頭を下げた。
その他
公開:20/12/31 16:23
更新:20/12/31 16:29

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