四季紙

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秋の黄昏を感じる暇もないまま、年の瀬が訪れた。上京して五年。都会は私に刺激をくれたが、代わりに私から四季を奪った。自分で選んだ道だから後悔はしていない。しかし真っ暗な部屋に帰宅すると弱音も吐きたくなる。

皆、元気かな。

私は春の旅立ちの日に貰った四季紙を机から取り出し、手を添えた。

四季紙から木々が生え、頑張れ!や努力!の言の葉をつけた。マタ菜の花畑をズットトモダチョウが求愛ダンスを始めた。冷たい部屋の中で、四季紙の周りだけが一面の春になった。

川からモウカエルがピョンと飛んできた。そしてケエロ、ケエロと鳴いた。

一瞬心が揺らいだが、首を振った。まだ、まだ帰れない。

でも、いつか皆の顔を見に行こう。夏がいい。新しい四季紙に言葉を貰いに。

気がつけば満開の桜色のコト花が舞っていた。根性、ファイト、元気で。その中に「好き」の花びらがある事には、まだ気づいていなかった。
ファンタジー
公開:20/12/31 15:07

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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