ユカリナ

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生まれつき私の左手の甲には小さい穴が空いている。手袋をした私は学校でいじめられた。放課後に一人ですすき野原にきては泣き、左手の親指を口にくわえ、右手で穴を押さえ、秘密の音を奏でた。
「オカリナみたいね」
ある日、同級生のリナに見られた。
『誰にも言わないで』
「何か吹いてよ」
『笑わないの?』
「クールじゃん」
膝をかいてリナは笑った。

数十年が経ち、世界的オカリナ奏者となった私はこの街に帰ってきた。すすき野原は公園だった。
帰り際、車椅子の女性とすれ違った。
『リナ?』
まさかね。
「ユカさんですか?」
声をかけたのは車椅子を押すリナの娘だった。リナは認知症だった。
「自慢の友達だって、いつも話すんです」
気がつくと手袋をとり、左手に息を吹き込んでいた。
「懐かしい曲ね…ユカに会いたいわ…」
リナは笑い、膝をかいた。
夕陽は相変わらず綺麗で、一瞬だけど波打つすすき野原が見えた気がした。
その他
公開:20/12/30 15:17
更新:20/12/31 10:02

そるとばたあ( 神奈川 )


☆そるとばたあの400字SSは、『ミュージシャンが曲を作るように物語を描く』をコンセプトとしております。
ことば遊びと文章のリズムにこだわり、音を体感できる物語に挑戦中です!


☆拙作のプレイリストを選んでいただきました!
気になられた方は、↓の過去作品も一緒に楽しんでいただければと思います!




【This is そるとばたあ selected by むう】

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