コタツの男

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 俺はコタツの中から桐の箱に入った俺自身の臍の緒を取り出した。「困ったことがあったらこれを使え」と父が教えてくれたのは、大学受験直前のコタツでのことだった。
 俺はコタツで産まれた。
 だから俺はコタツが好きで、コタツに全裸で潜り込むことが大好きだったのだ。産声を上げた時に見た真っ赤な熱源を、俺はずっと太陽だと思っていた。だから俺はランボーに傾倒し、高校の文芸部で詩を書き続けてきた。
 だが俺の詩には距離が欠けていた。
 その原因は、俺のルーツが太陽ではなくコタツだったからなのだ。俺は詩を捨て、コタツを取った。
 俺の節目はすべてコタツ絡みだった。性の目覚めも、第二次成長に戦いたのも、ファーストキスも、初体験も。妻と出会ったのも、愛を育んだのもコタツの中だった。
 だが、今日、俺は妻にコタツでの出産を拒否されてしまった。
 俺は臍の緒で俺の臍とコタツの端子を繋いで、スイッチをOFFにした。
その他
公開:20/12/30 12:11
更新:20/12/30 15:54
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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