預縁男

「あの、ハンカチ落としましたよ」
「これは勿体ないことをした」
「え？」
「袖触れ合うも何かの縁と言うでしょう？こんなご縁でも預けた方がいい」
「縁を預ける？」
「そう。預けた分だけ、縁利がつく。要は金利みたいなものですよ」
「あなたは預けているんですか」
「ええ、もらった縁のほとんどを。おかげで来世は安泰ですよ」
「もう来世のことまで」
「紳士のたしなみですよ」
「どうやって預けるんですか」
「余分な縁を断つんです。縁を繋げない、深めない。誰とも出会わなければ、自然と溜まっていきますよ」
「ということは、私もあなたに出会わない方がよかった？」
「まさにそういうことです。飲み込みが早い。さて、これ以上は縁の浪費になりますので、ここら辺で」
　男は人目を避けるように身をかがめ、雑踏に紛れていった。

　彼は今、Gに転生し、ひとつ冷蔵庫の下、たくさんの家族や仲間との縁に恵まれているようだ。