幼稚縁児

　会社をクビになった帰り道、どこからか「えーん、えーん」と子どもの声が響いてきた。辺りを見回すと、道路の隅にうずくまる幼稚園児と思しき格好の男の子がひとり。足を止め、「大丈夫？」と声をかけようとした瞬間。同じタイミングで駆け寄ってきた女性に先を越された。

　迷子？誘拐？事件？
僕たちがわぁわぁ騒いでいる間に、肝心の男の子の姿が消えていた。慌てて周囲を見渡すと、僕らの心配なぞどこ吹く風、遠くで母親らしき人と手を繋いでいる姿が見えた。なんだったんだ。僕らは顔を見合わせて吹き出してしまった。
　それが彼女との馴れ初め。

　今振り返っても、あの子はあの日がっくりと肩を落としていた僕に、「縁、縁」と教えてくれていたのではないかと思う。彼女は僕のこじつけと笑うだろうか。それでもやっぱり、そうとしか思えない。

　僕は、ゆかりと名付けた、生まれたばかりの赤ん坊を抱きとった。
「ほらね。聞いてごらん」