ゆかりの影

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西の空に影絵が踊り出したのは、水平線に陽が沈む直前だった。私たち親族は浜辺に横一列。波打ち際の和尚が振り返り、いよいよ口を開いた。

「お気づきですかな。あれらはゆかりの品です。先ほど私が〈撮影〉したでしょう」

祖父の三回忌だった。和尚は祖父の幼馴染み。すでに引退していたが、この法事だけは仕切らせろと復帰した。

和尚はまず、私たちの手を握り、ゆかりの品を思い浮かべるよう頼んだ。そして〈投影〉すると言い残し、ひとりシャドウピッチングを始めたのだった。

影絵劇は続く。次々と浮かび上がるシルエットに、それぞれが祖父との思い出を蘇らせている。ふと思う。和尚のゆかりは何だったんだろう。

「ま、腐れ縁でしょうな。枕元までこんなことお願いに来るんですから。なんかね、自分の〈遺影〉がどうしても気に入らないんですって」

私にとってのゆかりは猪口。あれ以来、思い出す祖父はいつも、へべれけの赤ら顔。
ファンタジー
公開:20/12/30 22:38

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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