縁切り

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「あれはね、縁切りっていう妖怪」
僕が幼い頃、おばあちゃんが優しく教えてくれた。
「人と人との縁を切る悪い妖怪じゃけぇ、現れたらこのお守りをかざすんよ」
今までに何百回と縁切りに遭遇し、その度にお守りをかざしてきた。
そうすると縁切りは嫌がりながら逃げていった。
おばあちゃんには縁切りについて色んななことを教えてもらったが、最後の教えは病院のベッドの上でだった。
「私が死んだときに縁切りが現れると思うけど、お守りはかざさんとってね。あの世とこの世との縁を切ってくれるけぇ」
「そんな……」
「いつまでもこの世におるのはよくないことなんよ」

目の前にはおばあちゃんが入っている棺がある。
気がつくと、隣には縁切りが立っていた。
縁切りはゆっくりと棺に近づき、ちょきんという音をたてて縁を切った。
「どうか、安らかに」
僕は心の中で呟いた。
ポケットのお守りを強すぎるほどに握りしめながら。
公開:20/12/30 22:11
更新:20/12/31 11:46

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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