つながりの記憶

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「縁もゆかりもないこの土地に赴任となりました」
天気のいい秋空の下。木々が緑から黄へと色づき始めの季節。一人の男はこじんまりとした神社の境内にいた。彼以外に人の姿はない。
「家の近くで見かけましたので、お参りに来ました」
男は黙々と語りかける。
「ここは自然が多く、いいところですね」
賽銭箱の前で手を合わせる後ろ姿を、一匹の狛犬は見つめていた。
(そうやって昔もよく来ていた)
それは三百年ほど前の話。
(町医者だったお前は、病に苦しむ民のために祈っていた)
スーツ姿と縞模様の着物姿とが、狛犬の中で重なる。
「皆の健康をどうぞお守りください。それでは、また来ます」
そう締めくくり男は来た道を帰っていく。
(現世のお前が再びここに来たのは偶然ではないだろう。人が呼ばれるのは理由あってのこと)
男はそれを知る由もなく、また狛犬にもそれを伝える術はない。
両者の間をただ温かな風が吹き抜けていった。
ファンタジー
公開:20/12/29 14:02

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