五畳半の宇宙

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 いつも消えて失くなる予感がある。あの日彼女はそう言った。雨の日に彼女は電車通学を選ぶ。あの日雨が降っていなければ、彼女が両替にてこずっていなければ、僕が見かけて千円札を取り替えっこしていなければ縁はなかった。声など掻き消される忙しない車内。いつも僕等は筆談で言葉を交わした。
 彼女は教室に顔を出したことがない。秘密の宿直室へ案内してくれた。宿直室といっても今は使われておらず物置きとなっている。秘密の場所。声を出せばばれてしまう。僕等は糸電話で言葉を交わした。ひっそりとした恋だった。とある日彼女は夜の学校へ忍び込もうと言い出した。宿直室の窓から天体望遠鏡で星を観測する。そして僕等は寄り添い眠りについた。
 目が覚めた時、彼女は居なかった。小指に糸電話の糸が結ばれていた。もう片方は窓の鍵へ結ばれている。窓辺へ行けば世界が広がっていた。置き手紙にはこう書いてあった。

 親の都合で転校します。
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公開:20/12/28 11:13
更新:20/12/28 11:13

木戸要平

講談社が運営する小説投稿サイト
NOVEL DAYSにて執筆中
https://novel.daysneo.com/sp/author/Sisyousetu/
 

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