ふつふつと沸き上がるよ

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 ふつふつと沸き上がるよ。君の記憶はラムネのように澄み切っていて、なににも染まれない生成り色。長いこと家へ帰って来なかった君が、ようやく帰って来る。煙突から登る頼りない煙が、薄く空に伸び、溶けてゆく。
 木々は光の粒を乗せ、生温い風に揺れていた。射し込む日が眩しくて、眼を細める。着慣れない背広を脱ぎ捨て、折り畳む。首を締めつけるネクタイを緩めた。吹かす煙草の煙が、頭の上で漂っては、柔らかく形を変える。
 君との時間は蚊取り線香の匂いがする。どこか懐かしく、それでいて真新しい。煙立つその匂いに夏の終わりみたいな気持ちになる。
 若過ぎたふたりは、周囲の心配も、反対も押し切って結婚。ひょんなことで出逢ったことも、大切な人を泣かせ親不孝した今も運命。
 長いこと家へ帰って来なかった君がやっと帰って来る。だからこうして砂利の上に立ち、ぼんやりと煙突の煙を眺めている。

 遺骨になって帰って来る。
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公開:20/12/28 11:09
更新:20/12/28 11:11

木戸要平

講談社が運営する小説投稿サイト
NOVEL DAYSにて執筆中
https://novel.daysneo.com/sp/author/Sisyousetu/
 

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