紅い紐

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「何よ、これ?」
目覚めると、私の右腕に紅い紐が結ばれていた。
解こうとして手で触れても感触はなく、紐は部屋のドアを抜け家の玄関へと続いていた。
「どうしたの?」
挙動不審の様子に母が声をかけた。
「な、何でもないわ」
大急ぎで服を着て外に出た。
おおよその方角を割り出し電車を乗り継いで跡を追ったが、紐は海の水平線へと消えていた。
「⋯⋯」
私はその足で空港へ向かい飛行機に乗った。海を渡り、野を歩み、山を越え、紅い紐を手繰って突き進んだ。
旅を続けて半年の月日が過ぎた頃。
真っ白な花に覆われた小高い丘の上で、紅い紐はぷっつりと途切れていた。
私はリュックを背負い直して坂を駆け登った。
紐は丘の上の墓石へと続き、百年も前に亡くなった男の名が刻まれていた。

「やっぱりあなただったのねっ!」
私は現世で一緒だったヒモ男の墓に、蹴りを喰らわせた。
紅い紐は暖かな風に舞い上がり、青空へ消えた──。
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公開:20/12/28 01:22
更新:20/12/31 15:43

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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