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「ちょっと!何やってんの!」
僕は叫ぶように言った。
父さんが缶ビールの中身を花瓶に注いでいたからだ。
「大声出すなよ。びっくりするだろ」
「だってそれ。ビールなんて入れたら花が枯れちゃうでしょ」
「これは酒をやると元気になる特殊な花なんだよ。むしろ酒がないと枯れてしまう」
久しぶりに帰ってきたらこれだ。
母さんがいなくなったから変になってしまったのだろうか。
僕は一瞬そう思ったが、父さんの目はしっかりとしていた。
「ほら、見てみろ」
花に視線を戻すと、まるで酔っているかのように花びらが赤く染まり、左右にゆらゆらと揺れていた。
「父さん」
そこまで言って、どんな言葉を継ぐべきか、僕は分からなくなって黙ってしまった。
「母さんも酒が好きだったよなあ」
父さんは笑っていた。
「え?」
「今日は二人で飲むか」
それが父さんと酒を酌み交わした初めての日になった。
公開:20/12/27 19:56

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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