あなたを想うストール

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「おい」
道すがら古びた骨董店の奥から声を掛けられた。
「お前さん、寒いだろ?」
出てきたのは酷く腰の曲がったおじいさんだった。
「いえ、今日は天気がいいので」
「いやいや、気温の話じゃない。一人は寒いだろ?今ならこいつがある。お前さんにぴったりだ」
差し出されたのは暖かそうなストールだった。光の加減で不思議と色が変わる。
「こいつは縁の糸で編んである。切れてしまった糸を集めて、丁寧によりあわせてな。こういう類の布は何百万もする」
「な、何百」
「だが特別に譲ろう。お前さん寒そうで見てられん」
半ば押し付けられるように渡されたストールに、ふと、懐かしい感じがした。思わず顔を埋める。
「あぁ、」
今はもうない実家の匂い、ひだまりの縁側と、真っ白な洗濯物と、夕食の匂い。この匂いは、
「かぁさん」
そういや何年も墓参り行けてない。思わず零れた涙に触れ、ストールはとけて消えた。肩に温もりが残った。
その他
公開:20/12/27 19:37

相浦 翼

文章を書く大学生

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