オーナメントが実る朝

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 故郷の姉が、慣れない一人暮らしで悪戦苦闘する私を励まそうとモミの木を贈ってきた。クリスマスの飾りを用意する必要がないという不思議な品種で、毎日水やりをして話しかけると『心から求めているもの』がオーナメントとして実るのだ。
 自分は今、何を心から求めているだろう? 子供のようにワクワクと純粋な気持ちで迎えたクリスマスの朝、緑の葉に紛れて実っていたのは透明な卵だった。手を伸ばすと卵が落ちて、サクッとした軽い音と共に殻が割れる。慌てて片付けようと屈んだ瞬間、どこか懐かしい香りが鼻をくすぐった。懐かしくて愛おしい、故郷の森の香り。目を閉じて、ふと思い出す。卵が割れた瞬間の音も聞き覚えがあった。小さい頃、大好きな姉と学校に向かった冬の朝、通学路で何度も聞いた霜柱を踏む音だ。

「会いたいなぁ……」

 香りだけではなく、耳の奥で幼い自分と姉の笑い声まで聞こえた気がした。
ファンタジー
公開:20/12/25 23:38

夏巳

Twitter@N_natsuo

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