愚直な男

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俺は己の無力さに絶望した。
空手全国大会優勝?それがどうした?俺の拳は恋人を守れなかった…暴走する車から助けられなかった!
俺に出来たのはとっさに突き飛ばしただけだ…
その甲斐あって彼女はかろうじて一命は取り留めた。しかし、未だ意識不明の重体だ。
そして俺もまた、その事故で右腕を失った。
空手と彼女、両方を失った俺は絶望した。
絶望しているにもかかわらず俺は毎日空手の訓練を続けている。片腕で正拳突きをこなす。
俺は空手しか能がない男だ。失ってもこれ以外の生き方を知らない。両腕があるものとして訓練をせずにはいられない。
そんな俺の右腕が、ないはずの拳が落ちてくる木の葉を打ち据えた。
偶然か?いや、確かに打ち据えている。
俺の腕はまだ何かを掴める。俺は探した。全力で東奔西走し彼女を訪れた。
俺は存在しない拳で、今も掴んでいるであろう彼女の魂をそっと彼女の胸に押し込んだ。
彼女が、目を覚ました。
公開:20/12/26 19:40

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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