縁日すくい

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「今年こそ結婚できますように!」
初詣の祈願を終えて石段を降りていくと、灯りが見えた。
縁日すくいとある屋台の奥に爺さんが鎮座し、水槽には可愛らしい人形たちが浮かんでいた。
「一回、百円じゃよ」
と、すくい枠をこちらに差し出す。
「じゃあ一回だけ」
どれにしようか迷っているとノッポの人形に目が止まった。瞳は丸く、眉は太く、少し笑っている。
ふふ、別れた彼にちょっと似てるな。
私はこの人形に狙いを定めた。薄い和紙に乗せてゆっくりと持ち上げ、少しずつ手元に近付ける。
「えいっ!」
人形の重みで和紙は破れたけど、辛うじてお椀に落とすことができた。
「お見事!」
と言って爺さんは破顔した。

喜んで人形を受け取っていると、とんとんと肩を叩かれた。
「好物の焼きそば、買ってきたぞ」
振り向くと、背の高い男が立っていた。
「⋯⋯ありがとう」
私はやさしい夫の手を握り、二人でゆっくりと歩き始めた──。
ファンタジー
公開:20/12/26 19:19
更新:20/12/31 21:36

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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