縁の葉

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「では、ご神木から一枚、葉を取って、口に含んでください」
 歴史のありそうな神社なのに、亡くなった人に会えるっていうのは怪しい。でも、小さい頃に亡くなったおばあちゃんに会ってみたいと思った。
 御神木から葉を取ると、スッとする匂いがした。目をつぶって口に含むと、変な味が広がる。すると、体があったかくなったような気がする。目を開けると、自分の体が毛むくじゃらになっていた。
「キャー。やっぱり、コアラって可愛い」
 若い女性に抱きしめられている。
 え?
 私がコアラ?
 あわてて、葉を吐き出す。そうか、ユーカリの葉だったから?
 吐き出すとすぐに体は元に戻り、女性は消えていた。

 旅先で変な目に合ったと母に話すと、母はにっこりと笑った。
「それは本物のおばあちゃんよ。大学生の時にオーストラリアでコアラを抱いたって言ってたもの」
 それなら、もっと、抱かれていればよかったと思った。
ファンタジー
公開:20/12/26 17:24

田辺 ふみ

名作絵画ショートショートコンテストで「復元師」が太田忠司賞を受賞しました。
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「ショートショートの花束」8と9にものっていますので、よろしく。
 

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