ココアを飲む

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 体の芯まで温まるとはまさにこのことだ。
「美味しい」
 真冬に飲むココアは格別だった。そして、私にとってこのココアは特別な味だった。
 二年前の冬。私にココアを淹れてくれたのは、今は亡き彼だった。
 彼は毎日のように私にココアを淹れてくれた。といってもそれは特別なものではなかった。市販に売ってあるごく普通のココア。だけど、彼が作ってくれたココアはいつも私の心まで温めた。
「美味しそうに飲む君の顔が好き」
 私がココアを飲む姿を見て彼はいつもそう言った。その言葉もまた私の心をじわーっと温めた。
「自分で入れたココアではやっぱり彼のココアには勝てないな」
 私はピンク色のマグカップを両手で持て少しずつココアを飲んだ。
「また飲みたいよ」
 二度と彼の淹れるココアを飲むことはできないんだよね。そう思ったら目頭が熱くなった。
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公開:20/12/24 21:56

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