せめてもの遺言

2
3

真夏でも山の中は涼しい。

今日は、私を女手一つで育ててくれた母が他界して初めての盆。
こんな山奥に墓を立てた母を恨んだが、清涼に包まれて些か快い。この辺りは数回度温泉旅行で来たことがある程度らしい。
車を置いてから少し歩かなければならなかった。線香に火をつけ、周囲の野草を刈り、供える。ここを永眠の地として選び、野草を供える理由ついて、母は恥ずかしがって教えてくれなかった。
墓前で手を合わせ、照れ屋で、寂しがり屋で、いつも控え目だった母に思いを馳せる。
どれくらい時間が経ったろうか。色々な事が頭を駆け巡った気もするし、結句無に帰した気もする。
二度、大きく深呼吸をする。木々から出た透き通った空気が体内が満たす。
次来るのはいつだろう、と考えながら来た道を戻っていると、後ろから物音がした。少し緊張しながら振り返ると、母の前に野うさぎが集まり野草を食べていた。
その他
公開:20/12/25 20:00
更新:20/12/25 22:12

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容