推しのためにできること

　ある青年のベランダからの転落死亡は、警察に、酔ったための事故として処理されたが、本人が掛けていた生命保険の受取人がバーチャルアイドルだったことから、私は継続調査を命じられた。
　青年はＶＲアイドル「イノリ」の熱狂的なファンで、これまでに相当額を課金しており、ＴＯ（ﾄｯﾌﾟｵﾀ）として認知されていた。当然、イノリも青年を認知しており、データ上には、青年とイノリとの親密なデートの様子も保存されていた。
　今回の件が報道されると、推しを受取人に生命保険を掛けるブームが訪れた。応援とは、可能な限りお金を落とすこと。ならば、青年は……
　転落時、青年はヘッドセットをつけており、仮想空間の青年の自室で、青年だけのためのディナーショーが催されていたらしい。共に歌い、フリコピする青年を、イノリは煽ったに違いない。
「さあ、一緒に飛ぶよ！」
　保険金を実際に受け取るのはイノリではなく、その運営会社である。