平衡移動

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顔を上げると、じっと私を見つめている目に出会った。目が合うとニッと笑った。瞬間頭が混乱した。仮にも入試会場ではないか。そんなところで試験管の私に笑うなんて事はあり得ない。思わず身震いして目をそらせた。気のせい、いやもしかしたら居眠りでもしていたのかと更に焦った。なぜなら、その顔にはっきりとした記憶があったからだ。
学校を抜け出してまた啓介と明枝は留守の家に逃げ込んでいた。まるでままごとのように学校でも夫婦気分でいた二人。悪ではなかったが、いちゃつきと抜け出しは毎度のことでそのたびに家から引き戻した。抵抗するでもなくにこにこと戻ってくる。
新入生の教室に入ると、いた。脇本明枝そっくりのあの入試会場の生徒が。慌てて名前を見ると脇本春樹。名前が同じ方がおかしい。
「母ちゃん離婚したんだよ」「父ちゃんは啓介?」「違うよ」明枝そっくりのにこにこ顔に妙に納得。時の流れは早い。
その他
公開:20/12/24 10:15

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