消えゆくもの

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「はは、何を言ってるんですか」
「僕は医者としての診断を下したまででね、あなたが何を信じるかまでは専門外なわけだから」
男はむっと顔をしかめ、少しく黙り込んだ。
「私が適応、障害? 四十年働いてきたんですよ。ここにきて、今更適応できてないなんてことが」
老齢の医師は小さくため息をつきながら首を振った。
「病気の意味を字義通り受け取っちゃうような真面目さ、危ういんですよ。まあゆっくり休むことだね」

帰路に面した公園では、小学生と思しき子供たちがサッカーをして遊んでいた。いつもなら煩わしく感じるのが、何故か小気味良く思えた。

ボールが転がってくる。
「すみませーん!」
元気な声、蹴り返してやると、礼儀正しく頭を下げて走り去っていく。
思わず破顔し、ふと思う。

笑ったのはいつ以来だろう、と。
男は家に着くまでの間、しばらく記憶をまさぐっていたが、いつまで経っても思い出すことはできなかった。
その他
公開:20/12/24 07:00
更新:20/12/24 06:25

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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