うけとるバトン

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長年一緒に過ごしてきたペットのお葬式をあげたい、という人は意外に多い。大学を卒業する前に就職先が見つからなかった私が流れるようにたどり着いたのが、ペット葬儀場という職場だった。

火葬を一件終え、店舗の相談窓口に戻ったとき、ドアの近くに初老の男性がぽつんと立っていた。

私は彼に窓口の椅子をすすめる。
「式のご相談でしょうか」私は、彼が持っていたフォトフレームに映るシュナウザーを見る。彼が申込書に書いた名前を見て、思わずあっと声が出そうになった。忘れもしない、15年前、私が飼っていたハムスターが病気になったとき、助けを求めて駆け込んだ動物病院の獣医の名前だったのだ。数日後にハムスターが亡くなり悲しんでいた私を、僕も大切なペットがいるから、君の気持ちは痛いほどわかるよ、と優しく慰めてくれた。黒かった彼の口ひげは、いま、白いものが混じる。
「大切に式を行います」次は私が彼の力になる番だ。
その他
公開:20/12/23 17:57

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