鍵穴に風ふいて

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「ゆかり使わなくても開くのかよ、アニキ」

俺は焦っていた。もし失敗したらこの婆さん、ボケ老人のままだぜ。

アニキは目を瞑り、金庫に聴診器をあてる。中身はもちろん、去年の春に亡くなった爺さんとの思い出だ。たくさん詰まってるのに、婆さんは鍵となるゆかりを失くしてしまっていた。

婆さんはいま、住み慣れた家から遠く離れた老人ホームにいる。年寄りの一人暮らしは危ないと、都会に住む子供たちが勝手に決めた。一気に痴呆が進んだ婆さんを見て、間に合ったと家族は胸を撫で下ろしている。

「なぜ気付けない。記憶はある。引き出せないだけ。だからお前らなんだよ。とにかくやれ。呪い殺されたくなきゃな」

じつは俺たち、たまたま空き巣に入った婆さん家で、爺さんの霊にとっ捕まった。リミットは一周忌。アニキ、もうバール使ってでもこじ開けようぜ。

カチャリ。

ホームの中庭に桜が咲き、婆さんは久しぶりの紅を引いた。
ファンタジー
公開:20/12/21 17:46

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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