私には痛いほどわかる

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 私の幼馴染は、夢を諦めた。
 私の大切な親友。
 彼女は事故で指を一本失った。たった一本、たかが一本。されど、一本。命の一本だった。義足じゃ足りなくて、親友は四歳からやっていた弦楽器を持たなくなった。それを捨てたのか、売ったのか、仕舞い込んでいるのかはわからない。親友は何も話さないから。大好きな音楽も、あまり聞かなくなった。どんなに指が痛んでも楽しそうだった人生も、重荷のように過ごしている。
 地元への移動中、ふと自分の手を見る。指が無駄についているように見えた。
 今日は久しぶりに地元へ帰る。大学進学時に地元を出てから、二年ぶりになる。電車を降り、身体が覚えているように道をたどる。道中、楽器屋さんがあった。
店内に足を進め、自然と弦楽器に目がいった。沢山ある中で、どうしても、目が離せないものがあった。
 私には、わかるよ。親友のだって。嬉しさも、切なさも、苦しさも、全部そこにあった。
青春
公開:20/12/22 19:20

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