チョコチップクッキー

廉価な外国産のチョコチップクッキーはあまり美味しくない。大味で硬すぎるし、齧るとすぐにボロボロと崩れる。パサパサしていて、変に甘い。

子供の頃は、何も気にせず食べていた。普通に美味しいと感じていたし、不満なんてなかった。テーブルの上に現れたチョコチップクッキーがどこからきた何者かなんて、知る由もない。知る必要もなかった。だって、それは素敵な時間だったのだ。

大人になると、確かに視野が広くなった気がする。それまで知らなかった多くのことを学んで、価値の高いものとそうでないもの、優れたものと劣っているものを区別する力を身につけた。

でも、僕には時々わからない。

子供の頃、小さな楽しみだったおやつの時間、そのささやかな幸せを彩ったチョコチップクッキーが、いま、僕の目に色褪せて映るのは。

「何難しい顔してるの」
母がこっちを見ている。
「なんでも」
僕はそう言って、不味いクッキーを齧った。