ご挨拶

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結婚が決まり、彼が母に挨拶に来ることになった。駅まで迎えに行った私は少し寄り道してお気に入りの場所に彼を案内した。
「昆虫好きの君と縁が深い場所だね」
蝶が舞っている中を散策できる昆虫園。父と良くここを歩いた。
中に入ると一頭の蝶が彼にとまった。
「ご挨拶かな?」
鮮やかなブルーに白い水玉が映えたその蝶は、昆虫園にいる間中私たちの側を離れなかった。
「懐かれたみたいだ」
「蝶はね、幸せのメッセンジャーなんだよ」
「へぇ」

家に着くと、母は食べきれない程の料理を食卓に並べて待っていた。
「そうそう。これ、この子が父の日に贈ったものでお父さんが大事してたの。嫌じゃなればあなたが使ってくれたら喜ぶと思うわ」
「あ!」
私と彼は声を揃えた。
鮮やかなブルーに白い水玉のネクタイ。
「僕、先程お父さんとご挨拶を!」
不思議そうな顔の母からネクタイを受け取ると、彼は「大事にします」と仏壇に頭を下げた。
公開:20/12/22 14:28
更新:20/12/31 00:24

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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