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また夢が漏れている。
ベッドに横になったままぼんやりと寝室の天井を見ていると、二階の人の夢が天井の端から緑色の雨漏りみたいに滲み出て、それは流れ星のように照明と火災警報器の間を斜めにつたっていく。天井を8対2に分断した夢のしずくは対岸の壁に行き着くことなく、やはり8対2の割合で流れを止めて、数日前に天井をつたった淡いピンクの夢の名残に触れて、その一点だけが泉のような透明感を生み、それが涙するみたいに落ちた。私はまだ目覚めというには頼りない意識の森にいて、夢のしずくが描いたふたつの線の角度や長さを美しく思った。
しずくの落ちる床には別れた妻が残していったおから色のアフガンハウンドが寝そべっている。長髪のミュージシャンみたいな彼の頭や背には夢のしずくが落ちて滲むのに、何も気にしないといった風情でこちらを見つめる彼に私は黒い革ジャンを着せたくなった。
彼の名はビリー。俺たちもう少し寝ていようか。
公開:20/12/22 14:18
更新:22/03/27 15:15

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