死者の思い

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 死に別れた彼女の夢を見た。
 闇の中、儚げな表情で、ずっとこちらを見つめている。
 寂しくないかい。そう話しかけるが、言葉はまるで届かない。
 僕は漆黒に手を伸ばす。せめて、彼女に触れることはできないだろうか。
 願っても、願っても、二人の距離は果てしなく、何一つとして叶わない。

 つきあって三年目。大学を出たら一緒に暮らそう。あの冬の日、初めてそんな話をした。
 その直後、別れは突然やってきた。
 いつもより少し長いキスをして、それぞれ帰路についたところで事故が起きた。
 交差点で横転したダンプが歩道に乗り上げた。
 即死だった。

 あれから二か月。いつまでたっても、僕は君のいない世界になじめない。
 そばにいたい。ぬくもりを感じたい。
 涙をぬぐい、そんな思いをねじ伏せる。
 今の場所で幸せをつかんだ君と、百年後、ここで再会できればそれでいい。

 冥界に、西の空から朝日が昇る。
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公開:20/12/22 03:42

掌編小説( 首都圏 )

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イラストはミカスケさん(https://twitter.com/oekakimikasuke)やノーコピーライトガールさん(https://twitter.com/nocopyrightgirl)の作品です。写真はフリー素材を利用させていただいています。

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