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食卓の上には一冊の文庫本が残されていた。私はひとつの事実を忘れないでおくために、その本をずっとそこに置いていた。
妻が失踪して二週間が経つ。彼女の持ち物はすべて残されたままだ。日常の風景から、彼女の姿だけがすっぽりと抜け落ちてしまった。
件の文庫本は私が学生の頃に読んでいたものだ。これまでその存在についてはまったく思い出すことがなかった。彼女がそれをどこから見つけてきたのか、皆目見当がつかない。
小説を読み直して、愕然とした。細部の違いこそあれ、そこには私と妻の出会いからいままでを、そっくりなぞったような物語が描かれていたのだ。さして劇的な内容でもなかったから、まるで覚えていなかった。
最終章で、妻は突然主人公の前から姿を消す。そして物語が幕を下ろすまで、ついに再び現れることはない。
私は文庫本を鞄に詰め、玄関に鍵をかけた。当分戻ることはないだろう。
物語はまだ続いているのだ。
妻が失踪して二週間が経つ。彼女の持ち物はすべて残されたままだ。日常の風景から、彼女の姿だけがすっぽりと抜け落ちてしまった。
件の文庫本は私が学生の頃に読んでいたものだ。これまでその存在についてはまったく思い出すことがなかった。彼女がそれをどこから見つけてきたのか、皆目見当がつかない。
小説を読み直して、愕然とした。細部の違いこそあれ、そこには私と妻の出会いからいままでを、そっくりなぞったような物語が描かれていたのだ。さして劇的な内容でもなかったから、まるで覚えていなかった。
最終章で、妻は突然主人公の前から姿を消す。そして物語が幕を下ろすまで、ついに再び現れることはない。
私は文庫本を鞄に詰め、玄関に鍵をかけた。当分戻ることはないだろう。
物語はまだ続いているのだ。
ミステリー・推理
公開:20/12/22 07:00
更新:20/12/21 21:34
更新:20/12/21 21:34
さまようアラフォー主夫
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