ゆかいのゆかい

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 ゆかりは四歳で自分のことを「ゆかい」と言う。ある日、ゆかりとお宝鑑定番組を見ていると……
「パパ。ゆかいはハコイリムスメだしょ?」
「そうだよ」
「そえじゃ、ハコガキは?」
 なるほど。鑑定士が茶碗の共箱を褒めている。
 ――三代目菊丘琢磨の箱書に七代目橘光義から初代高梨法悦へというゆかり来歴が約束通り書かれておりますねぇ
「ゆかいのハコとハコガキは? ゆかいのゆかいはどこに書いてあうの?」
 わたしはゆかりを膝に抱き上げました。
「ゆかりの箱はこのお家だよ」
「ふうん。そんでハコガキは? なきゃゆかいがニセモノになっちゃうよ」
「うん。それじゃ箱書を見に行こう」
 わたしは玄関を出て、ほら。と指差しました。
「パパとママとゆかい!」
 ゆかりはうれしそうに表札をペタペタと叩きました。
「ゆかいはパパとママにゆかいのお宝ね!」
「そうだよ」
 わたしはそう言って、ゆかりを抱きしめました。
その他
公開:20/12/20 10:45
ゆかり

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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