夢見る万年筆は踊る

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祖母は綺麗な字を書く人だった。時に優しく時に鋭かった、紙の上を滑るペンの音が懐かしい。私も万年筆が好きだ。特に好きなのは、英語の歌詞の書き写し。白いノートに丁寧に文字を綴ると留学の夢にも近づけそうな気がする。
インクを買い足しに文具店を訪れた日のこと、店の奥で、青い目の女性が座って文字を書いていた。古い英文手紙のような、美しい濃青のABC…。「 You Calligraphy のエラです。当社のインクは、音声認識機能付なんですよ。ここ向かって何か言ってみてください。」ふと、祖母と過ごした最後の冬を思う。Winter -そう囁くと、紙の上に置かれた万年筆がスッと立ちあがり…リンクを舞うフィギュアスケーターのように凛々しく優雅な音をたてて、カッパープレート体に似た美しい文字を描いた。

ふと、あの人にあの曲を教えてもらった日のことを思う。何度も書いたあの歌詞を、今、万年筆に向かって囁いてみる。
その他
公開:20/12/21 03:40

マーモット( 長野県 )

初投稿は2020/8/17。
SSGで作品を読んだり書いたり読んでもらえたりするのは幸せです。趣味はほっつき歩き&走り(ながらの妄想)。
 

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