時間のつぼみ

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我が家には変わった桜の木がある。
その桜の木は1年中蕾をつけている。蕾をつけているだけで咲いた所を一度も見た事がない。
その桜は春を、四季を、時間すらも忘れてしまったかのように蕾をつける。
どうすればあの蕾は開くのだろう?考えても分からない。無理に開こうにも私では蕾に手が届かない。
その蕾は咲く事は勿論、枯れる事も忘れているようだ。不変の桜はまるで作り物のようにも見える。
しかし、晩春になれば青々とした葉をつける。どうやら、忘れん坊なのは蕾だけのようだ。
そうなると蕾は偽物ではないかと疑ってしまう。あの蕾に触れてみたい。
その思いは成長しても忘れる事なく私の心の中にあった。
そして、成長した私は手を伸ばし、蕾に触れる。
冷たい感触だった。指先が熱くなった。手を引っ込めて確認する。
指先がまるで鋭利な刃物で切られたかのように裂けていた。
蕾を見ると時間を取り戻したかのように赤く色づいていた。
公開:20/12/20 20:16

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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