つくもがみ

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開け放たれた縁側の外は、庭の茂みがまぶしい。明かりのついていない部屋の中までうっすら緑が映っていた。
縁側から上がって畳に倒れこむ。ほてった身体から熱が徐々に抜けていく。畳の青いにおいを吸い込んで仰向けになると、軒に吊るされた風鈴が目に入った。短冊が揺れるたび、空気がたわんで波紋が広がる。水底から水面を眺めている気分だった。

右足がじくじくと痛む。家へ向かう間は必死で気にならなかったが、まだ血が止まってないかもしれない。元の場所に戻りたいが、身体がひどく、重い。

うつらうつらとするうちに、風鈴に描かれている金魚が尾ひれを揺らしはじめた。音の震えにのって金魚は風鈴から放たれる。風鈴のつくる波紋を金魚がくずしていく。
この風鈴が家に来たのは百五十年と半年前。そいつも長く家にいるうちに動くようになったのだろう。
家主がこの風鈴を買った時のことを思い出しながら眠りに落ちた。
ファンタジー
公開:20/12/20 17:42
日本家屋 風鈴 付喪神

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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