冬幻鏡

23
21

雪がちらつく路地裏を散策していたとき、雑貨屋「ユートピア」というユニークな店名に惹かれ、店内に入ってみた。
仙人に似たおじいさんが、雲のような座布団に座って朗らかな笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい。俗世にはない珍しい品々が揃っているから、ゆっくり見ていくといい」
店内には、古そうな品々が所狭しと置かれていた。
「あそこに硝子の万華鏡が置いてある。覗いてごらん」
おじいさんの指示に従い覗いてみると、一面銀世界の真っ白な平原を、雪ん子のような少女と愛くるしい兎が遊んでいた。
「冬の今だけ幻想的な世界が見える『冬幻鏡』と呼ばれる代物じゃ」
夢中で冬幻鏡を覗き続けていると、氷の宮殿で冬将軍と雪の女王の指示に従って、子供が遊ぶ玩具を大きな袋に詰め込むサンタクロースとトナカイの姿があった。
もうすぐクリスマスだなあと物思いに耽っていると、おじいさんが言った。
「冬幻鏡は桃源郷を映し出す鏡なんじゃ」
ファンタジー
公開:20/12/18 19:46
ユートピア 仙人 俗世 硝子 万華鏡 銀世界 雪ん子 桃源郷

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容